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 ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers
ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers
مؤلف: 霜月立冬

第一話 ティンティンが、どうにかなっちゃうっ!!

مؤلف: 霜月立冬
last update تاريخ النشر: 2025-07-09 09:39:54

 麗らかな春の陽射しが射しこむ白亜の城。

 姦しい小鳥の合唱に煽られながら、簡素な黒いドレスにエプロン(メイド服)をまとった女性達が忙しく動き回っていた。

「今日の掃除当番は、私の班――」

「洗濯物はうち――」

「こっちは今からお昼の準備だよ。大変だ――」

 全員、城詰めの侍従(侍女)だった。彼女達の仕事は、午前中が最も過酷だった。それでも、余計なことを喋っている余裕はあった。

 外から聞こえる小鳥達との鳴き声と相まって、和やかな雰囲気を醸し出していた。その光景を目にすれば、自然と笑みが零れる。

 しかし、笑っていられたのは、侍女達の姿を遠目に眺めていたときまで。近くに寄って見てみると、彼女達の頭から「奇妙なもの」が生えているのに気付く。

 侍女達の額、左右の蟀谷辺りから、それぞれ「大人の指ほどもある突起物」が生えていた。

 有体に言えば、それは「角」だ。

 それぞれ形や大きさは違えども、共通して先端部分が「真っ赤」に染まっていた。しかも、金属のような光沢があった。

 実際、先端部分は金属並みに硬質化している。侍女達から頭突きを食らえば、痛いでは済まない。

 頭に凶器を持つ侍女、「鬼メイド」と呼ぶべきか。

 しかしながら、頭部以外は至って普通の少女達。「只の城詰めのメイド」として、忙しいながらも、毎日楽しく過ごしていた。

 侍女達の誰しもが、「これからも、きっと楽しい日々が続く」と想像して、それを信じていた。

 しかし、今日、この瞬間(午前十時半頃)、侍女達の日常は破壊された。

(((駄目っ、ダメダメ駄目ですぅっ!!)))

「「「「「!?」」」」」

 突然、城の奥から「女性の絶叫」が轟いた。それを聞いた侍女達の顔から笑みが消えた。

「何?」「今の?」

 互いに顔を見合わせて、一斉に首を傾げた。その間も、城の奥から女性の声が轟き続けていた。

(((嫌っ、駄目っ、ダメええええっ!!)))

「「「「「!!」」」」」

(((これ以上は、無理です、駄目ですっ!!)))

「「「「「――――っ!?」」」」」

 声が聞こえる度、侍女達の顔から色が失われた。

「一体――」「何が起こっているの?」

 侍女達は様子を探ろうと耳を澄ませた。

 すると、少女の声に混じって「男性のもの」と思しき低音の美声が聞こえてきた。

(((大丈夫だ。もう少し――)))

 年若い男性の声。それも、聞き惚れるほどの美声だった。しかし、どうやら性根の方は捻じ曲がっているようだ。

(((駄目ですっ)))

(((何が駄目なものか。未だまだ――)))

(((あっ、あっ、ああああああっ!!)))

「「「「「…………」」」」」

 謎の男女の会話。それを聞く侍女達の顔に、恐怖と「嫌悪感」が滲み出ていた。

 もしかして、ろくでもない男が女の子をイジメているのでは?

 侍女達の脳内に、「女性的には最悪」と言える可能性が次々閃いた。それは杞憂であって欲しかった。

 ところが、謎の男女の会話は「侍女達の最悪」を全力で保証した。それどころか、より混沌さを増した斜め上の方向に突き抜けてしまった。

(((私の、私の、私の――)))

(((『私の』――何だ?」))

(((『ティンティン』ですっ、私のティンティンが、どうにかなっちゃうっ!!)))

 大絶叫。それこそ「魔物の咆哮」と錯覚するほどの轟音が、侍女達の鼓膜を劈いた。

 その瞬間、侍女達は一様に「奇妙な行動」を取った。

 それぞれ両手を頭に掲げて、蟀谷辺りから生えた「角」を隠した。

 何故、そのような行動を取ったのか? その答えは「角の名称」に有った。

 この国、「ティン王国」では角のことを「ティン」と呼ぶ。女性の場合は「二本」生えている為、ティンとは別に「ティンティン」という別称が有った。

 さて、この地球上に角のことを「ティン」、或いは「ティンティン」と呼称する国が有るだろうか? それを問われたならば、「無い」と答えるだろう。多分、無い。

少なくとも、角の生えた人間が住む「ティン王国」という国は無い。

 そう、ここは異世界だった。いや、地球と同じ世界に有る――「異星」だった。

 星の名を「マサクーン」という。地球から遠く離れた場所、M111星雲に浮かぶ「元・地球人の創造神」が創りし惑星だ。

 マサクーンという名前は、実は神が人間だった頃の本名から捩っている。

 創造神が地球出身の為、マサクーンにも同じ(或いは『似た』)要素が幾つか有った。

 しかし、「全く地球そっくりなのか?」と問われると、首が斜めに傾くだろう。

 そもそも、世界創造のコンセプトが「俺流ファンタジー世界」なのだ。地球とは似て非なることの方が多かった。

 一応、主要民族は「人間種」といえる。しかし、「ファンタジー世界」である為、中には角が生えている者とか、耳が長過ぎる者とか、背中に羽の生えた掌サイズの者とか、獣の顔をしている者――と、所謂「亜人種」が含まれていた。その事実だけで、お釣りがくるほど地球と異なっている。

 しかし、そこはファンタジー世界。

 定番の設定、「魔法」や「超能力」と言った、物理法則を無視し、捻じ曲げ、卓袱台返しをかますような異能力も完備していた。

 それらの力は余りに便利であった。その為、マサクーンでは科学が全く発展せず、その文明のレベルは(創造神の目論見通り)「地球の中世」辺りで停滞していた。

 それらの事実を鑑みると、角が生えていたり、それを「ティン」或いは「ティンティン」と呼んでいたりすることなど「些事」、或いは「普通」と断言しても良いだろう。

 そんな普通の国、ティン王国は今、滅亡の危機を迎える――かもしれない。その切っ掛けになりそうな事件が、王城内最奥、ティン王国第一王子、「デッカ・ティン」の執務室で起こっていた。

 亡国の引き金となりそうな事件が発生したのは、現在から遡ること三十分ほど前、時計の針が丁度「午前十時」を指した頃のこと。

 このとき、デッカは一人ぼっちで執務室に籠っていた。

 デッカの執務室は、王城深奥に位置しながら窓から陽光が入っていた。その為、とても明るかった。

 デッカは、部屋の窓際中央部に配置された豪奢な執務机の席に座っていた。その机上に積まれた「紙束が詰まった分厚いファイル」を読み漁りながら、

「むむむむむ」

 唸っていた。

 貴公子然とした美男子が、紙束の山と睨めっこしている。その現場に居合わせたならば、殆どの者の首が斜めに傾いた。

 しかし、傾いた首は、一瞬で元に戻った。デッカを見た者は、総じて、いや、敢えて「すべからく(そうすべき)」と表現しよう、直ぐに「別のこと」に意識を奪われた。

 別のこと。それは、デッカの額に聳える角――「ティン」だ。

 ティン王国の主要民族である「ティン族」には、先述の通り角が生えている。

 男女とも、「上向きに反り返っている」と言う大まかな形状をしていた。しかし、明らかに異なる点が大きく「二つ」有った。

 女性の場合、蟀谷辺りから一本ずつ。

 男性の場合、額のど真ん中から一本。

 ティンの先端部分に関しても、女性が「赤」であるのに対して、男性は「黒」く染まっていた。

 一般的なティンの特徴は、デッカのものにも備わっていた。しかし、それでも、彼のものには「異常」と言わざるを得ない特徴が有った。

 デッカのティンは、余りに大きかった。それを見た者に「頭から大人の腕が生えている」と錯覚させるほどに。

 ティン族の者であろうと、いや、ティン族ならば、「デカい」と言いながら唸っている。

 実際、デッカのティンは「ティン族史上最大」だった。

 そもそも、デッカが生まれるまでは、ティンの最大サイズを評した言葉は、「大人の手」だったのだから。

 最早、「異次元」と言わざるを得ない大きさ、デカさだった。ティン族でなくとも視線が吸い寄せられる。

 そんな規格外にデカいティンを持つ貴公子が、書物と睨めっこしていた。

 デッカが「内容を読もう」と顔を近付けると、硬質化したティンの先端部分が紙面に突き刺さった。

 ああ、やってしまった。

 デッカは溜息を堪えながら、それでも書物と睨めっこを続けていた。その様子は、他者の目には「奇行」と映っただろう。

 しかし、デッカ本人は至って大真面目だった。その端正な顔を気難しげに歪めながら、王領(国王の直轄地)の「経済状況」に付いて考えていた。

 ここ数年、王領の人口は増えている。それなのに、税収、税収率が下がっている。何故なのか?

 王領税務課の資料を見ると、税収に関する項目、その数値が軒並み減少していた。

 封建制度下に有って、「王領の税収が芳しくない」と言う事実は、他領土を支配する上級貴族達の不信感を煽りかねない。中には良からぬ二心を抱く者も出るかもしれない。その可能性を想像する者は、デッカに限った話ではない――と、デッカ本人は思った。

 ところが、王領の税務課も、王領の最高責任者であるデッカの父、第十六代ティン王国国王「ムケイ・ティン」も、誰も解決を図ろうとはしていなかった。

 何故、誰も何も言わないのか?

 税収に関する問題に付いて考えるほど、デッカの首は斜めに傾いだ。傾き続けて、終に机上に積まれた資料の山と殆ど平行になっていた。これ以上傾けば首が外れていただろう。

 しかし、「そうはさせじ」とばかりに、予想外の救助隊(デッカにとっては邪魔者)がやってきた。

 デッカの首が外れかけたその瞬間、執務室のドアから「トトトト」と小気味良い打音が響き渡った。その音は、「上下」に向いたデッカの耳にも届いていた。

「何方かな?」

 デッカは首を元に戻しながら、即応で返事をした。すると、ドアの向こうから重低音の美声が響き渡った。

「『ケイン・モータル』でございます」

 ケイン・モータル。彼は王領に居を構える貴族であり、王城内の侍従を統括する「家令」を務めている。

 他家(王族)に仕えている為、貴族としては「下級」、その爵位は「男爵」だ。

 しかし、モータル家は建国以来王族に仕え続けてきた古貴族。デッカにとっては幼少期以来の顔馴染み、気の置けない旧知の間柄であった。その為、少し油断した。

 ケインなら、まあ、別に――って、今は拙いのか。

「少し待ってくれ」

 デッカはケインを牽制した後、超速で机上の資料を片付けた。

 しかし、余りに多い。その為、引き出しにしまう訳にもいかなかった。

 どうしたものか?

 デッカはコンマ数秒悩んだ後、資料群を強引に机下に突っ込んだ。

 デッカの暴力的な行為によって、机上から資料は完全に消えた。その事実を確認したところで、デッカは再びドアの向こうにいるケインに声を掛けた。

「どうぞ」

「失礼します」

 デッカが許可を出すと、静かに執務室のドアが開かれた。

 開いた隙間から、初老の男性が入ってきた。その厳めしい顔は、デッカにとっては良く見知ったものだった。その際、デッカの視界に「男性の額」が映り込んでいた。

 そこには大人の指、それも三本分は有ろうかというほどのデカい「ティン」が生えていた。

 デッカとは比べるべくもない。しかし、一般ティン族が「羨望の眼差し」を向けるほど、黒光りする立派なティンだった。

 因みに、一般的なティンの大きさは「指の第一関節」か、或いは「第二関節」ほどである。「指そのもの」と言うほどデカいティンとなると、特別な存在、「貴族」と呼ばれる者しか持っていなかった。

 尤も、「指」で例えられる大きさは「下級貴族の平均」だ。市井は兎も角、王城ではよく見かけるティン(或いはティンティン)だった。その為、デッカを含めて、王城内の人間ならば誰も気にも留めなかった。

 ところが、ケインを見た瞬間、デッカの秀麗な眉が歪んだ。

 おや? まさか「連れ」がいたとは。

 ケインの左隣に、子どもと錯覚するほど小柄な女性がいた。

 その女性、いや、少女は「ティン王家に仕える侍女の制服(メイド服)」を着用していた。「王城に勤める侍女」となれば、デッカの顔見知りである可能性は高い。

 しかし、「何者か?」と確認しようにも、少女の顔は「自棄に長い前髪」に隠されていた。それを見て、即応で「お前か」と断定することは難しい。

 しかし、デッカには思い当たる節が有った。

 あの長い前髪、どこかで見たような?

 デッカは記憶の糸を手繰った。その先に、「目の前の少女」と重なる侍女の姿が有った。

 ところが、「そこに手が届く」と思われた瞬間、重低音の声が上がった。

「殿下に、お詫びしたいことが御座います」

 ケインは、その場で跪き、両手を床に着いて――平伏した。すると、隣の侍女までもが、ケインに倣って平伏していた。

 二人の行為に意味は、きっと有るのだろう。しかし、デッカにとっては全く意味不明なものだった。

 え? 何この状況。

 デッカは首を傾げた。彼としても、二人の行為の意味を理解したかった。しかし、それ以上に「現況」が気になって仕方なかった。

 中年男性と、歳の頃十代の少女が、執務室の出入り口で平伏している。部屋の主として、「このような現場を衆目に晒すこと」は、全力で避けたかった。その想いが、デッカの端正な口を衝いて出た。

「兎に角、中に入ってくれ」

 デッカの要求に、ケイン達は即応した。

 二人は直ぐ様立ち上がった。ケインが執務室のドアを閉めた。それがシッカリ閉まったことを確認した後、二人揃って部屋の真ん中まで移動して――、

「申し訳ありませんでした」

 ケインが声を上げた。その直後、再び二人揃って平伏した。

 すると、二人の様子を見詰めていたデッカの口が「一」から「へ」の字に歪んだ。

 一体、「何だ」と言うのだ? 

 デッカの首は盛大に傾いだ。相手の意図が分からなければ対応のしようもない。だからと言って、訳も分からず平伏され続けることは、デッカにとって迷惑以外の何ものでもなかった。

 こちらから、埒を開けるしかないか。

 デッカは心中で溜息を洩らしながら、平伏し続けている二人に向かって声を掛けた。

「どういうこと、なのかな?」

 デッカは状況の説明を求めた。それに応じたのはケインだった。彼は平伏したまま声を上げた。

「この者、我が娘『リィン』が、殿下に『トンデモない無礼』を働いたのです」

 リィン。その名前はデッカの記憶に有った。その事実を直感した瞬間、ケインの左隣で平伏する少女の正体をハッキリ理解した。

 数日――一昨日だったか? 俺の世話係班に配属された新しい子(侍女)だった。

 灯台下暗し。余りに至近の記憶であったが故に見落としていた。

 俺も、未だまだだな。

 デッカの顔に苦笑が浮かんだ。しかし、笑っていられたのは、再びケインが声を上げるまでの僅かな間だった。

「こやつ、殿下の寝所で、有ろうことか『殿下の枕に顔を埋めて』――」

「!?」

 ケインから「リィンの所業」を聞いた瞬間、デッカの顔から表情が消えた。

 もしかして、この子、俺のことが――好き?

 枕に顔を埋める。相手が異性となれば、デッカでなくとも「思慕の情」を想像する。それが「当り」と思えるような言葉が、ケインの口から飛び出した。

「自分の『ティンティンを弄って』おったのですっ!!」

「!」

 ティンティンを弄る。誤解のないよう適切な言葉に置き換えると、「角を弄る」となる。それは幼少期のティン族に有りがちな悪癖だった。

 自分の額に角が生えていたならば、誰だって触りたくもなるだろう。弄りたくもなるもなるだろう。そんなことで一々目くじらを立てていたら、周りから「短気な人」だと思われるだろう。

 しかし、「子どもの悪癖」と言えども、場合によっては許されざることも有る。

 リィンの行為は、デッカが表情を無くすほどの大罪だった。

「この件、他に知っている人はいるのかな?」

「いえ、発見者は私ですし、この子も今回が初めてだったようで」

「そう――か」

 リィンの所業を知っている者は、この場にいる三人だけ。その事実は「幸運」と言えた。しかし、「次も大丈夫」とは、誰も保証できなかった。

「これからは、しないで欲しい」

 デッカはリィンを諫めた。すると、リィンの頭が更に下がって――「ゴン」と、強かに頭を打った。その痛々しい音が上がった直後、初めてリィンの声が上がった。

「申し訳、ありません」

 リィンはデッカに謝罪した。その直後、さめざめと泣き出した。

 ああ、面倒なことになった。

 執務室の中に少女の鳴き声が響き渡った。デッカはリィンの声を掛けるべきかどうか考えていた。その最中、

「えぐぅ、ぐすぅ――……」

 唐突にリィンの鳴き声がピタリと止んだ。その行為は、デッカにとっては意外なものだった。

 何だ、俺が何もしなくても泣き止んでくれるのか。

 デッカの顔に苦笑が浮かんだ。しかし、それは直後に凍り付いた。

 それまで平伏していたリィンが、突然上半身を起こしたのだ。

「?」

 デッカは反射的にリィンをジッと見詰めた。すると、リィンは右手を掲げて、

「実は――」

 長い前髪を両手で掻き上げた。すると、あどけなさの残る可愛らしい顔が現れた。それを見た誰もが「前髪で隠すなんて勿体ない」と思っただろう。デッカも、「これからは髪を上げていれば良いのに」と思った。

 しかし、リィンには前髪を伸ばす必要が有った。彼女には「隠さねばならないもの」が有った。それは、彼女の「蟀谷」を見れば直感できた。

 そこには「有るべきもの」が無かった。普通の人間と全く同じだった。

 そう、リィンは「ティンティンが生えていなかった」のだ。その事実は、デッカに強い衝撃を与えた。

 この子はティン族ではないのか?

 ティン族にはティンが生えている。生えていなければティン族ではなかった。その事実を鑑みると、デッカの想像は的を射ているように思える。

 しかし、「ハズレ」だった。その事実が、リィン本人の口から告げられた。

「私のティンティン、凄く『小さい』んです」

 よく見ると、蟀谷の上がホンノリ赤くなっていた。しかし、それを「ティン」と呼ぶのには、抵抗が有り過ぎた。

「だから、その、殿下に肖りたくて、つい――」

 リィンと同じ想いを抱く者は、ティン族には存外に多い。「デッカを除く全員」と言っても過言ではない。

 しかし、リィンのやり方が拙かった。拙過ぎた。デッカが表情を無くすほどに。それに止まらず、「王国の滅亡」を想像させるほどに。最悪の可能性を想像した者は、デッカだけではなかった。

「『つい』で済むことかっ!!」

「「!?」」

 執務室にケインの怒声が響き渡った。その瞬間、リィンとデッカの体が大きく震えた。

 ケインは怒り心頭していた。その火勢は凄まじく、辺り一面を焼き尽くすまで収まりそうもなかった。

「お前と言う奴は、自分の我が儘の為に、大恩有る殿下に御迷惑を掛けるなどっ!!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「そも、殿下には『リザベル様』という許嫁がいるのだぞっ!!」

「「!!!」」

 リザベル。その名前がケイン口から出た瞬間、リィンとデッカの体が大きく跳ねた。

 リザベル・ティムル。彼女は辺境伯アズル・ティムルの長女にして、デッカの「許嫁」だった。

 辺境伯令嬢となれば、確かに「やんごとないお家柄」だ。しかし、それら全ての特徴は、どれも「王国の滅亡」を想像させる理由ではなかった。

 問題は、リザベル本人。その理由、或いは「象徴」と言うべきものが、彼女の両蟀谷から生えていた。

 リザベルのティンもまた、とてもデカかった。デッカと並んでも遜色が無いほど。

 デッカのティンが「史上最大」ならば、リザベルのティンティンもまた「史上最大」だった。

 史上最大のティンを持つ者の許嫁にして、史上最大のティンティンを持つ者。ティンを持つ者、ティン族にとって、二人が「特別な存在」であることは想像に易いだろう。

 そんな二人の仲を拗らせるような出来事が起こればどうなるか? それがどんなものかと想像するだけで、ティン族のティン(或いはティンティン)は恐怖で縮こまった。その中に、デッカも含まれていた。

 このことが「リザ(リザベルの愛称)」の耳に入ったら拙い。

 リザベルは、父親アズルから「辺境伯の娘として誰よりも強くあるように」と厳しく育てられていた。その為、プライドが高い。恥に敏感で、負けず嫌い。許嫁という立場にも強い拘りを持っている。 デッカに近付く女性がいれば、それに張り合おうとする面倒な性質を持ち合わせていた。

 有体に言えば、「嫉妬深い」。その性質に関しては、デッカも隠れて涙するほど思い知らされていた。

 まあ、「泣く」だけで済むならマシか。

 今回の一件がリザベル耳に入れば、面倒臭いことになることは確実。その可能性を想像すると、デッカの喉下まで「津波の如き巨大溜息」が押し寄せた。

 本当に、どうしたら良いんだろう? 

 デッカは目を閉じた。気持ちを落ち着けて、喉下まで押し寄せた巨大溜息を押し戻した。それが完全に胃の中に納まったところで、今回の打開策に付いて考えた。

 リザのことも問題だが、リィンのティンティンもそのままにはしておけんか。

 ティンを持つティン族にとって、ティンの大きさには拘りが有った。拘り過ぎて拗らせていた。まして、貴族の身であれば、居場所を無くす可能性も有った。

「ティンティン――」

 小さいティンティンを大きくする。それができたならば、リィンは救われるだろう。

 デッカは右手を掲げて、その指先を見た。「そこ」にはリィンを救う手段が有った。その事実を、デッカは直感していた。

 しかし、少なからず躊躇いも覚えていた。

 うむむ、「これ」を実行すると、絶対面倒なことになる。

 デッカの喉下に「雪崩の如き巨大溜息」が押し寄せた。それを、デッカは必死に飲み込んだ。それが胃の中に納まって、胃液で消化し切ったところで――デッカは目を開けた。

「俺が――何とかする」

「「!?」」

 デッカの声に、ケインとリィンが反応した。そのまま無言で、ジッとデッカを見詰めた。その視線を浴びて、デッカが動いた。

 デッカは、リィンの眼前まで近付いて、その場にしゃがみ込んだ。

「君のティンティン」

「はい……」

「俺がどうにかする」

「お願い、します」

「俺は今から――」

 後に続いたデッカの言葉。それを告げた瞬間、リィンだけでなく、ケインまでもが驚いて目を剥いた。

「君のティンティンに触れる」

「「!!!」」

「君のティンティンに、直に俺の『ティン力(ティン・ポウ)』を注げば――」

 ティン力。それはティンに宿った摩訶不思議な力。マサクーンの創造神から与えられた、所謂「超能力」だった。

 ティン力は念じるだけで発動する。しかし、その力はティンの大きさに比例した。

 ティン小さき者にできることは少ない。しかしながら、デッカほどのデカいティンであれば、神の奇跡を期待できた。

 因みに、「力」を「ポウ」と発音する由来は、「力を表す『パワー』という言葉が訛ったもの」と言われている。

 神に届くデッカのティン力。それを、デッカは使う気満々だった。リィンを救う自信も有った。ところが、

「いけませんっ、それだけはっ」

「リザベル様に怒られてしまいますっ!!」

 モータル親子は全力で拒否した。

 モータル親子の反応は、他国人には理解し難い。「ティンティンくらいらで大袈裟な、触らせてやれば良いではないか?」と、誰もが思う。

 しかし、ティン族であれば、誰もが「それは確かに駄目だ」と全力で頷いた。

 ティン族間では始祖の代から「ティンに触れることは主従関係を結ぶことと同義」と内外で喧伝していた。その思い込みが因習となり、月日の経過と共に拗れに拗れ、現在では本当に「主従関係を結ぶ儀式」として定着していた。相手が異性となると、「婚姻関係を結ぶ儀式」と解釈された。

 デッカがリィンのティンティンに触れたなら、二人は婚姻関係を結んだとみなされる。それは、「現婚約者に対する裏切り」と受け取られても仕方がない。少なくとも、嫉妬深い辺境伯の娘の逆鱗に触れるのは「必定」と言わざるを得ない。

 デッカとて、面倒事になる可能性を「有り得る」と直感していた。その為、許嫁に対する「言い訳」を用意した。

「『素手』ではない」

「「えっ?」」

「手袋を嵌める」

「「それは――」」

「だから、赦せ」

「「…………」」

「『直に触っていない』から儀式は無効だ」

 デッカの言い訳は、薄氷の如き危うい「屁理屈」だった。それを聞いたモータル親子の顔から表情が消えた。

 本当に良いのだろうか?

 モータル親子の背中に冷汗が滴った。親子共々「止めるべき」と直感していた。しかし、彼らが見詰める先では、既にデッカが両手に白い手袋を嵌めていた。

 殿下にお任せするしか――ない。

 モータル親子も覚悟を決めた。

 その直後、デッカの両手がリィンの蟀谷に伸びた。その指先が、リィンの「赤らんだ箇所」に触れた。その瞬間、

「!」

 リィンは息を飲んだ。その反応はデッカにも伝わっていた。しかし、

「ティン力を注ぐぞ」

 デッカは無視した。そのまま両手の人差し指と親指を使って、リィンのティンティンを強引に摘まんだ。

 その瞬間、リィンの体がビクリと震えた。

 殿下――デッカ様の指から、何か、何か熱いものが伝わってくる!?

 電撃のように峻烈な、それでいて、皮膚が蕩けるような甘美な刺激だった。それが、デッカの指先からリィンのティンティンに染み込んでいく。

 デッカが与えた刺激はリィンの全身に広がって、彼女の心と体を痺れ、蕩けさせていた。

「ふっ……くっ……ううっ」

 リィンにとって初めての経験だった。抗い難い刺激だった。幾ら堪えようとしても、口から声が漏れた。それでも、最後まで耐えきるつもりだった。ところが、

「あああっ!!」

 できなかった。耐えられなかった。

 一般ティン族にとって、デッカのティン力は余りに強力、余りにデカかった。

「私のティンティンが、どうにかなっちゃうっ!!」

 リィンの大声は、執務室を突き抜けて荘厳な白亜の王城中に響き渡っていた。

 果たして、リィンのティンティンはどうなってしまったのか? リザベルのことはどうするのか? そもそも、リザベルはいつ出てくるのか?

 次回、「第二話 私のティンティンがデカくなってる」

 良かったね。

※拙作をお読み下さり感謝いたします。

 宜しければ評価、感想などを頂けますと有難く思います。

 今後とも宜しくお願い致します。

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     アゲパン大陸の北東にそびえ立つ天下の険、ピタラ山脈。その麓に広がる白い城塞都市、王都オーティン。その中心に立つ白亜の王城で、ちょっとしたファッションショーが行われていた。 場所は王城最大の広間、謁見の間。  ピタラ石が敷き詰められた白亜の空間(中心)に、四人の男性が立っている。 国王ムケイ、第一王子デッカ、第二王子フルイ。  王族男性揃い踏みである。その中に混じって、長身痩躯の男性、デッカ専属声騎士のブラリオがいた。  それぞれの立場や身分は、当然違う。しかしながら、今はそれぞれ一人の男として同じ「土俵」の上に立っている。 土俵と言えば「力士」を想起する者は存外に多い。実際、四人とも力士っぽい格好をしていた。 有り体に言えば「殆ど全裸」である。唯一身に着けているものは、腰から垂れる「長い白布」だけ。その布の意味と正体が、ムケイの口から飛び出した。「どうだ? ジポング土産の『|褌《ふんどし》』の履き心地は?」 褌。極東の島国「ジポング」に於ける一般的な男性の衣装である。その眩しい白さに、ムケイは心底惚れ込んでいた。  ムケイは、その鋭い瞳をキラキラ輝かせながら、息子達(幸運にして巻き込まれたブラリオを含む)に感想を要求(立場的に強要)した。すると、デッカが反応した。「ふむ」 デッカは、感想を言う為に、先ずは自身の体を見回した。  このとき、デッカは堂々としていた。堂々と褌姿を晒していた。殆ど全裸という状態でも、何ら恥じることは無い。  しかしながら、「この場の全員が、褌姿に自信満々」という訳ではなかった。 国王の意に反する不届きな言葉が、デッカの|弟君《おとうとぎみ》(『おとうとくん』とルビを振りたいところだが)の口から飛び出した。「僕は、少し恥ずかしいです」 フルイは右腕で胸を隠し、左腕で股間を隠そうとしている。その言動は、当然ムケイの|耳目《じもく》に入っている。「恥ずかしい?」 ムケイの端正な顔が、ピシリと音を立てて強張った。その喉下まで「ばっかもーん」という怒鳴り声が込み上げた。心中には説教を垂れたい気持ちも沸いている。 しかしながら、|王偉《おうい》をものともしない不届き者が、もう一人いた。  ブラリオは、その痩身を存分に晒しながらも、頻りに首を捻っている。「陛下。何故、フンドシ――ですか? これ一枚しか身に付

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第三十四話 そのような目で余の妻を見るなっ

     アゲパン大陸東端に位置する島国は、他国から「ジポング」と呼ばれている。  しかしながら、それは飽くまで他称。ジポング国民は、自国を「帆本」と呼称している。  何か、こう、火山噴火と同時に「ひょっこり」しそうな名前である。これもまた、島国故の感性か。  そもそも、ジポング――帆本は島国故、他国からの影響が少ない。帆本内では「帆風」という独自の文化が発展している。  王都「江都」の構造も、その内の一つ。 江都を上から見ると、川と見紛う大きな堀が「右巻きの渦状」になっている。江都城の城下町は、その間に挟まるように展開していた。 渦の中心に将軍の居城「江都城」。その御膝下に「武家街」。更に外側を「町人街」――と、いう順番だ。江都城には、真っ直ぐ辿り着けない構造となっている。  一応、城下町にはメインストリートが有る。しかし、それらは途中で建物、壁、なんやかんやの障害物にバッサリ遮られている。支道も袋小路ばかり。初見で江都城まで辿り着くことは難しいだろう。それ以前に、迷子になること間違いなし。 そんな「迷宮」のような場所で「祭」が開催されている。それも、全宇宙に名を轟かせている奇祭、「褌祭」だ。  褌祭を見学しようと、外宇宙から異星人までもがやって来るとか来ないとか。  まあ、仮に「やってきた」としても、現地民は無視する。発祥の地である地球の人々であろうとも、江都の都民達であろうとも、全力で無視する。  何しろ、褌祭の開催期間中は何かと忙しいのだ。それこそ人の心を亡くすほど。「今、正に開催中」となれば尚更だ。  些事に構っていられるほど、皆は暇ではない。例え異星人を見付けたとしても、「祭」以外に興味関心を覚えられる状態ではなかった。 今、江都城下町人街のメインストリートには、江都中の都民達が大勢詰め掛けている。それなりの広さが有る大道が、黒山の人だかりで埋め尽くされている。宛ら「満員電車の鮨詰め状態」と言ったところ。蟻の這い出る隙間もない。そのはずだった。  ところが、蟻より遥かに大きな物体が「ぬっ」と湧いて出た。 人海のど真ん中に、「屋根付きの箱」が覗いている。それを押し上げているものは、「半裸の男達」だった。 男達が担いでいる箱は、ジポングの「神輿」という。  男達の格好

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第三十三話 今、城下で褌祭が催されているのですが

     武士の国ジポングの首都(王都)を「江都」という。他国の王都同様、王(ジポングで言うところの『将軍』)の居城を中心に、城下町が広がっている。  王城――江都城の周りには堀が有ったり、城壁が有ったりする。しかし、城下町には何の防衛機構も無い。「平和だね?」と、いう訳ではない。 実は、城下町自体が江都城の防衛機構なのだ。城下に暮らす領民は、ちょっとだけ涙目になっても良い。  尤も、そこは武士の、武士に因る、武士なりの考え。元より籠城戦となれば、領民を城に押し込めるつもりなのだ。城内には領民を匿う設備や、備蓄がタンマリ有った。まあ、それはそれとして。  現在、江都城内、他国でいうところの「謁見の魔」に、奇妙な「男女」の姿が有った。 歳の頃五十代――もしかしたら四十代後半と思しき男性と、十代前半――もしかしたら十歳未満と思しき女性。 二人は一見、親子。しかして、その実態は夫婦。しかし、只の夫婦ではない。二人の額から「大人の手」と形容できるほど大きな「角」が生えていた。  明らかにティン族。それも、王侯貴族級にデカい。さもありなん、宜なるかな。二人は王族だった。 ティン王国国王ムケイ・ティンと、その妻、王妃マルコ・ティン。 そんなやんごとない身分の二人が今、畳敷きの広間のど真ん中で、武士達に囲まれながら平伏していた。 何してんねん? 居合わせた武士、ジポングの為政者(将軍の近習)達は、二人の正体を知らない。それでも、「絶対に只者ではない」と直感して、二人をジト目で見詰めていた。彼らの主である将軍、徳下良月も「何かトンデモナイのが来ちゃってるぞ」と思いながら、引きつった笑みを浮かべていた。  そんな異様な雰囲気の中、平伏していた男女の内、男性の方が声を上げた。「余――いや、我が王ムケイ陛下から、将軍様宛の『親書』を預かっております」 親書。そこには現況の理由や意味が書いてある――かもしれない。居合わせたジポングの為政者達は、親書の内容に期待した。それを確かめたい気持ちも沸いた。  しかし、その前に「ちょっと気になること」が有った。 今、「余」って言ったよな? 余。とても偉い人が使う一人称である。それを許されている存在は、惑星マサクーンに於いては「王」、ジポングに於いては「将軍」唯一人。その事実は、将軍良月を含め、

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第三十二話 外国旅行に行きたいな

     奇妙な広間だった。藁を編んだ「畳」という床の上に、髪を結った複数名の中高年男性が座っている。その男達は、それぞれ「裃《かみしも》」と呼ばれる東方の民族衣装をまとっていた。    ここは異国。アゲパン大陸の東端に在る島国。その名も「ジポング」という。 現況は「ジポングの支配者」の居城だ。その中に有る大広間、他国で言うところの「謁見の間」であった。 一見、「変わった謁見の間」である。しかしながら、構造や機能は他国のそれと同じだ。 広間の最奥は「厚畳」と呼ばれる一段高い場所になっている。そのど真ん中に、歳の頃四十後半、或いは五十か? よほど苦労しているのか、年齢を特定し難い老け方をした男性が胡坐を掻いて座っていた。 その男――よく見ると、ちょっとイケメン。「若い頃はさぞやオモテになられた」とは、想像に易い。 しかし、実は一途な愛妻家。奥さん以外の女性に指一本触れていない。 その「貞操観念の権化」というべき男の名は「徳下良月《トクシタ・ラツキ》」という。 良月はジポングの武士を束ねる総大将であり、それ故にジポングを支配する「王」だ。ジポングでは、王のことを「将軍」という。良月は二十二代目の将軍だ。  その良月の前に、奇妙な二人組が平伏していた。 良月と同年代の男性と、十代前半と思しき少女。 それぞれ、ジポング的に「異国の衣装」をまとっている。しかし、奇妙なのは意匠だけではなかった。  男女の頭には「角」が生えていた。それも、「大人の手」と形容するほどデカいやつが。そのデカさは――そう、「王侯貴族級」なのだ。一目瞭然なのだ。   ところが、当人達は全力で身分を偽っていた。「我々は、ティン国王ムケイ陛下から遣わされた使者に御座います」 五十代男性が自己紹介した際、良月を含めた武士達が一斉に首を傾げた。 それ、絶対嘘だよね? 皆、男女の頭に生えた角――「ティン(或いはティンティン)を見ていた。実際、「それ」が一番分かり易い。しかし、例えティンが無かったとしても「普通の使者」とは思わなかっただろう。  ティン族の使者(自称)達の体から、抑えきれないほどの威厳が漂っている。それも、自分達の王(将軍)をも凌ぐほど。 このような偉人が、只の使者のはずが無い。 誰もが「これ、ほんとマジヤバいやつ」と直感していた。そして、「それ」は正鵠ど真ん中を深

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第三十一話 お兄ちゃんが、そのようなこと申すはずが無い

     アゲパン大陸北方、天壁ピタラ山脈の麓に在る白い城塞都市「王都オーティン」。  ティン王国最古の都市であるが故、オーティンには様々な名所旧跡が存在している。  その内の一つ、都市の中心(王城)から、ちょっと南寄りに「中央広場」と呼ばれる開けた場所が有った。  ピタラ石を敷き詰めた、直径三百メートルの大真円。そこは今、額に角を生やした人間(ティン族)」で溢れ返っていた。それこそ「王都中のティン族が集まっているのでは」と錯覚するほど。  何故なのか? その謎を解く鍵は、人海の中心に設けられた「木(ゲッパク)製の建造物」に有った。 それは、急造した「野外舞台」であった。 舞台の上で、人間(真人間族)が大声を張り上げながら動き回っている。  人間達は皆、「羽織袴」という異国の衣装をまとっていた。頭に髷を結って、腰に打刀を差している。  その格好は、東方の島国「ジポング」に住む「お武家様」のものだ。 お武家様が、鬼(ティン族)の集団に囲まれている。その様子を地球人が見たならば、「お労しや」と手を合わせてしまうだろう。  実際、お武家様方も生きた心地がしていなかった。しかし、彼らは逃げなかった。舞台の上から降りなかった。  そもそも、お武家様達には「鬼(ティン族)を楽しませる」という使命を持っていた。それを果たす為、この国(ティン王国)にやってきたのだ。 お武家様達は、全員「役者」だった。それも、ジポングで最も有名な演劇集団、その名も「ジポング歌劇団」の団員だ。 今日の演目は「甘えん坊将軍」という痛快娯楽現代劇。  物語の内容を簡潔に表現すると、「ジポングの最頂点に君臨する将軍が、あの手この手で色んな人に甘えまくる」といったところ。人気シリーズであるが故に、和数も多く、お約束の展開も多々有った。  しかしながら、今日の話は少々「特殊」な内容になっていた。 舞台の上では、複数のお武家様達が円を描くように並んでいた。彼らは全員内側を向いていた。その円心には一人のお武家様(壮年)の姿が有った。 そのお武家様こそ、物語の主人公「徳俵新之助《トクダワラ・シンノスケ》」。その正体は当代将軍「徳下値吉好《トクシタネ・ヨシヨシ》」である。  当然ながら架空の人物である。 今、新之助(吉好)は単身で敵地(悪代官宅)に乗り込んでいた。そこには悪代官と、その手

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第三十話 仲良くやっていけそうだね

     惑星マサクーン最大の陸地、アゲパン大陸。その「臍」というべき中央部に在る国、オニクランド共和国。その領土の中心に聳える山脈、オツパイン樅帯。その頂上部に群生するオツパイン樅の木の下で、白い革コートを羽織った貴公子と淑女の姿が有った。 貴公子の名はデッカ・ティン。淑女の名はリザベル・ティムル。 リザベルは、大きな樅木に背中を預けるように立っている。デッカは、リザベルの真正面に立っている。  うら若い男女が大きな樅木の下で向かい合っている。その現場に出くわしたなら、脳内に「仲良く遊びましょ」と、楽しげな幻聴が響き渡ったとしても致し方無し、宜なるかな。  しかし、その幻聴は一瞬で雲散霧消する。現況が醸し出す空気は「ラブラブ」ではなく、どちらかといえば「修羅場」に近い。 二人の間に剣呑な緊張感が漂っていた。しかしながら、それを醸し出しているのはリザベルだけ。デッカの方はと言うと、「訳が分からない」と言わんばかりの困惑顔で首を傾げている。 デッカの視線の先には、彼の右手が有った。それは、リザベルの左手に握られていた。その行為に関しては、デッカ側には何の疑念も無かった。問題は、「その奥に控えた物体」に有った。 二人の手は「リザベルの胸」の辺りに掲げられていた。その行為は、リザベルの方から仕掛けたものだった。デッカには意味が分からなかった。  デッカの頭上に「?」が浮かんだ。そのタイミングで、リザベルが謎の呪文を唱えた。「どうぞ、『お揉み』下さいませ」 「え?」 デッカの首が一層傾いだ。頭上の「?」の数も増えた。しかし、混乱しているのは彼だけではなかった。  この場には、デッカ達の他に、樅の影から二人を見守る護衛者、護衛隊、オニクランド共和国大統領夫婦がいた。彼らの首も一斉に傾いでいた。その困惑の空気は「元凶」にも届いていた。「あ、私としたことが」 マスクに隠れたリザベルの目に、正気の色が戻った。彼女は冷静になった。その上で、現況に対する「彼女なりの最適解」を告げた。「繋いでいては、お揉みできませんわ」 リザベルは、直ぐ様デッカと繋いでいた手を解いた。その行為によって、デッカの右手は解放された。その事実を直感した瞬間、リザベルは頬赤らめながら胸部を突き出した。「どうぞ」 「えっと?」 一体、何が「どう

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第三話 あああああああああああっ、デッカ様っ

     ティン王国王城内にいるデッカ・ティンが、彼の許嫁リザベル・ティムルへの対応に頭を抱えていた頃、当のリザベルはと言うと、とある場所の豪華な「個室」に置かれたベッドに俯せで横たわって――「ああああああああああああっ、デッカ様っ」 枕に顔を埋めながら叫んでいた。その声がデッカの耳に届くことは無かった。しかし、二人の距離は存外に近かった。 リザベル・ティムル。彼女は、「辺境の雄」の異名を持つアズル・ティムル辺境伯の娘、二人姉妹の長女である。  リザベルの生家、アズル領は王国領西南端、モリッコロの際、隣国との国境沿いに位置していた。 デッカがいる王都までの距離は、他の領土と比べるべくもなく

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第二話 私のティンティンがデカくなってる

     ティン王国の王子が侍女のティンティンを弄っている間に、少しだけ「惑星マサクーン」、及び「ティン王国」に付いて説明したい。 惑星マサクーンは、元・地球人の神が「俺流ファンタジー」を企図して創造した、神(人)工惑星である。  造物主が「元・地球人」であるが故に、マサクーンにも地球と同じく「海」と「陸」が有った。 星の七割を占める大海「リバイアス」。そのど真ん中に鎮座する大陸「アゲパン」。 海と陸には、それぞれの環境に適した生物が住んでいる。その中で、万物の霊長である人間種はと言うと、殆どが陸、アゲパン大陸に住んでいた。 アゲパン大陸には、人間種が建てた様々な国が有った。その中に有角人

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第六話 どちらのティンの方がデカいのか?

     ティン王国第一王子、デッカ・ティン。そして、王国西南端最前線を守護するアズル辺境伯の長女、リザベル・ティムル。  二人が出会ったのは、現在を遡ること十年ほど前のこと。 当時、二人は六歳。それぞれ健勝なのだから、出会う可能性は有るには有った。  しかしながら、彼我の生家は余りに遠い。膝栗毛(徒歩)など論外、馬車を使うにしても無茶が過ぎる。  何の用事が有って、こんな無茶を通したのか? 有体に言えば、「我が子のティンを誇示したい親の自己満足、或いは虚栄心を満たす為」だった。 そもそも、両家の当主達はデッカ達が0歳の頃から、二人を出会わせたくて仕方が無かったのだ。それを六年も待ったのだ

  • ティン王国のデッカとリザベル The Happy Lovers   第五話 私のティンティンをお握り下さいませっ

     王立オーティン大学食堂カフェテラス。そこには生粋の王都民しか知らない「伝説」が有った。「カフェテラスで告白し、それを受けて貰えたならば、二人は結婚し、幸せな余生を過ごすことができる」 一体、誰が言い出したことか。残念ながら、その曰くを知る者はいない。説明できない以上、信ぴょう性は皆無。その伝説を他の領土(或いは都市)から来た者に話すと、首を傾げられたり、眉に唾を付けられたりした。  しかし、生粋の王都民にはメジャーな伝説だった。それを信じ、肖ろうとする者は存外に多い。  ティン王国第一王子デッカ・ティンも、その内の一人だった。 麗らかな春の日差しに照らされた野外昼食場(カフェテラ

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